TRANSLATE

GlobalNavi

AD | all

胎児の人権は守られているのか?(記事No.87)

 ここ最近、日本で最も多く取り上げられているニュースは、新型コロナ・オミクロン株の感染拡大であろう。それが、本当に恐るべきことであるとは思えないが、日々感染者(正確には検査陽性者)が増加して行く様は、人々の警戒心を高め、関心を引き付けるのも無理はない。これは何も新型コロナに限った話では無いが、政府やマスコミが何かを大々的に知らせようとする時には、その陰で、国民が不利益を受けるような、他の事態が進行中ということがよくある話である。例えば、有名芸能人のスキャンダルなどが大きく報道されている時、国会では、国民生活に負の影響を及ぼしかねない法律の改廃について、淡々と審議されてる場合もあるだろう。今回は、胎児にとって危険な話がひっそりと進められていた。

 毎日新聞電子版2022年1月31日付記事によると、新型出生前診断について、国や関連学会などが参加する運営委員会が、検査対象を拡大する案をまとめたとのことである。この運営委員会のメンバー構成や事務局などの詳細は、厚生労働省に忖度してか報道されていない。新型出生前診断とは、妊婦の血液から胎児の染色体疾患を検査するものであり、現在は、おおむね35歳以上の妊婦が対象とされる。これを、検査の前提となる情報提供やカウンセリングを、胎児の病気に不安を持つ全ての妊婦に認める方針で、今春以降の実施を目指しているそうだ。この検査は、ダウン症など3つの疾患の可能性を調べるものであり、妊婦の採血で検査出来る手軽さがあると言う。これまでのところ、この検査で胎児の疾患が判明し、その後検査結果が確定したケースでは、その内約9割の妊婦が中絶を選択しているそうだ。記事の中でも、特定の疾患の排除や命の選別を助長する恐れがあり、慎重な運用が求められるとの指摘がなされている。実際、染色体疾患がある子を育てる親の調査では、8割超が外的な圧力による中絶はあり得ると答えたと言う。

 この記事を読んだ時、真っ先に思い浮かべたのは、2011年3月の福島第1原発事故による放射能汚染により、特に福島県浜通り地域などの重汚染地帯で、いったいどれだけの胎児が影響を受けたのかということである。胎児の出生前診断を今後も認めるのであれば、全国の市町村別に年間の検査実施数と、異常が認められた割合を公表する必要がある。これを市町村別の年間中絶数と突き合わせれば、重汚染地帯の胎児に放射能がどれくらい影響を与え、その結果どれくらいの胎児が中絶されたのか、統計的な検証も可能となる。もちろん、そのような検証の目的は、妊婦と胎児を守るために実施されるべきであり、本来は希望する妊婦全員を、原発事故直後に、重汚染地帯から移住させるべきであったのは言うまでもない。これは、子供たちについても同様である。

 出生前診断については、恐ろしい話が他にもある。ロイター通信電子版の2021年7月9日付記事によれば、中国の遺伝子解析最大手BGIグループ(華大集団)が中国人民解放軍と共同開発した出生前検査について、診断データが国家安全保障に直接関連する場合には、中国当局に提出可能な規定となっていると言う。同社の出生前検査は、これまでに世界中の妊婦800万人以上に利用されている。アメリカ国家テロ対策センターは、同社の出生前診検査を受ける海外の女性は、中国情報機関へのデータ提供を認めている個人情報保護規定に注意すべきだと警鐘を鳴らした。中国の人民解放軍や情報機関と協力関係にあるBGIグループが、何の目的で、海外諸国を含む妊婦と胎児の遺伝子データを収集しているのだろうか?中国国内では、少数民族出身者を正確に特定して、治安管理に活用することが考えられる。外国での遺伝子情報収集は、特定の人種や民族をターゲットにした、生物兵器の開発に活用する目的があるのかも知れない。いずれにせよ、中共政権が邪悪な意図を有していることは疑い無い。

 さて、ここまで出生前診断に潜む懸念を挙げたが、最も肝心なことは、胎児の人権が守られるのかと言うことである。中絶については、長年世界の多くの国々で議論が行われて来た。英語圏では、女性が中絶する権利を優先することをプロ・チョイス、胎児を守ることを優先することをプロ・ライフと呼ぶ。ポリティカル・コレクトネス的には、プロ・チョイスが正当とされる場合が多い。一般的には、リベラルな政治思想を有するとされる人々の中で、プロ・チョイスの支持者が多い。これに対して、保守的な政治思想を有する人々の中では、プロ・ライフの支持者が多い。日本の場合は、国民的議論が盛り上がっているとは言えないほど、中絶の権利が当然のこととして、多くの人々に受け止められていると思う。日本で中絶の法的根拠は、母体保護法(旧優生保護法)に定められている。同法の規定では、人工妊娠中絶を行うことが出来るのは、妊娠の継続または分娩が身体的または経済的理由により、母体の健康を著しく害するおそれのある場合、並びに暴行または脅迫により姦淫されて妊娠した場合となっている。

 厚生労働省の統計では、2020(令和2)年の人口中絶数は145,340件であった。1949年以降の統計では、これまでのピークは、1955(昭和30)年の約117万件であった。以降は、減少傾向が続き、2012(平成24)年からは、20万人を切って推移している。長期的には大幅に減少してはいるものの、毎年10数万人の胎児が、出生することなく生涯を終えている状況がある。母体が危険な場合などでは、究極の選択を迫られる場合もあるだろう。強姦による妊娠の場合では、妊婦が中絶を選択したなら、その血の責任は犯人の方にあると思える。問題は、経済的理由を認めていることであろう。仮に妊婦が経済的に困窮しており、夫や恋人も支えることが出来ない、あるいは支えようとしないのであれば、国が責任を持って、安心して出産、育児が出来るように支援すべきであろう。世界には、受胎の瞬間から法的保護の対象となると、憲法で規定している国々もある。近い将来、憲法改正への具体的動きがあるかも知れない日本の政治状況であるが、どうせ議論するなら、胎児の権利の保護も是非対象に含めてもらいたいと思う。最後に、胎児の人権にも関連した、聖書の言葉をいくつか挙げておきたい。神が胎児を深く愛され、彼らに目を留めておられることが分かるであろう。

「助産婦たちは神を畏れていたので、エジプトの王が命じたとおりにはせず、生まれた男の子を生かしておいた」(出エジプト記 1:17 )

「私を胎内に造った方は 彼らをも造られたのではないか。唯一の方が私たちを 母の胎に形づくられたのではないか」(ヨブ記 31:15)

「母が身ごもったときから 私はあなたに託されていた。母の胎にいたときから、あなたはわが神」(詩篇 22:11)(いずれも聖書協会共同訳)