読者の皆さんもご承知のとおり、台湾(中華民国)は、一度も中共の統治下に置かれたことは無い、れっきとした独立国であり、主権、領土、国民という、国家としての全ての要件を備えている。しかも、国家元首である総統を、国民の直接選挙で選任するなど、現在のアジアにおいて、最も民主的な国家である。しかし、同時に、中共が国連における代表権を簒奪して以来、日米欧など西側諸国の大半は、次々と台湾との外交関係を断絶し、中国と国交を結んで来た。現在では、台湾と正式な外交関係にある国は、14ヵ国にまで減少しており、バチカン市国を除けば、大半が中南米諸国や太平洋の島嶼国である。これは、中国外交の成果と言うよりも、中共の援助や投資を餌にした、バラマキ外交の結果である。多くの国々が国交を結ぶ中国は、建国以来共産党独裁体制が敷かれている。国民が国家指導者を公然と批判しても、台湾では平和的手段を逸脱しない限りは逮捕されることは無いが、中国では直ちに公安に拘束されること必至である。
このような台湾であるが、中共による絶え間ない恫喝と軍事的脅威にさらされている。政治的、軍事的には対立関係にある両国であるが、経済的には相互依存の側面もあることは事実である。台湾のメーカーなどが大陸側に投資し、現地に設立した工場で、台湾企業向けの部品製造を行うなどの事業活動が行われている。しかし、昨年11月に中国政府が、台湾与党・民主進歩党への大口献金企業である台湾企業の現地法人に対して、環境や安全上の瑕疵を口実に、約16億円相当の巨額の罰金を課して以来、台湾経済界は、対中投資にはより慎重になっている。中共の台湾統一に向けた戦略の1つには、経済的に台湾の中国依存度を高めさせることがあると思われるが、衣の下の鎧が見えたような出来事であった。習近平国家主席は、2013年3月に就任以来、任期中の台湾統一に強い意欲を示して来た。習氏は2027年に3任期目を終えるが、同年は中国人民解放軍創設100周年の節目でもある。中共が、2027年迄に台湾に侵攻する計画を策定している可能性は高い。
とは言え、台湾はアメリカと正式な同盟関係は無いものの、断交以降も、軍事的な協力関係を維持して来た。これは、日中戦争当時にアメリカが、蒋介石を支援する義勇空軍部隊を送り込んで以来の、今なお続く(準)軍事同盟関係である。公式には、米台断交により駐留アメリカ軍は全て撤退したことになっていたが、実際には、訓練支援や連絡調整のため、非公式に少数の要員が派遣されていた。2021年10月には、蔡英文総統がCNNの取材に対して、台湾に小規模な米軍部隊が駐留していることを公に認めている。今回のペロシ氏訪台においては、中国軍に対する牽制のため、アメリカは空母機動部隊を周辺海域に派遣しているが、中国も虎の子の空母2隻を出航させたと言われている。8月2日日本時間21時時点で、中国では福建省や上海市など沿岸部を中心に、民間航空路線が軒並み欠航となっており、中国空軍が臨戦体制に入ったとの観測もなされている。台湾側は今の所、民間航空機も通常飛行するなど平静を保っているが、海空軍を中心に警戒レベルを上げていることは想像に難くない。
台湾海峡がにわかに波高くなって来たような状況であるが、ここで気になるのは、7月下旬に、アメリカのビクトリア・ヌーランド国務次官が来日していることである。ヌーランド氏が、エマニュエル駐日アメリカ大使と会談したことは公表されているが、恐らくは、在日米軍高官らとも協議を行ったと思われる。主要なテーマは、中国が台湾に対して軍事行動を起こした場合の、アメリカおよび日本の対応ではなかったかと推測する。この場合、アメリカは主体的に行動するのはもちろんだが、日本はアメリカからの指示を受けて行動することになる。ちなみに、ヌーランド氏は、父方の祖父がロシアから移住したユダヤ系ウクライナ人であったが、オバマ政権時代に国務次官補に任命され、自身も外交官としてウクライナに深く関与している。当時の彼女の任務は、親ロシア派であったウクライナのヤヌコビッチ大統領を失脚させ、同国に親米政権を樹立することであったと言われるが、見事任務を果たしている。その「成果」は、今年2月にロシアによる侵攻を呼び込んだことにつながっている。言うならば、ヌーランド氏は、戦争屋またはその手先である上級工作員である。
こうなると、今回のペロシ氏台湾訪問は、単なる米台友好関係の促進だけでは無いことが伺えよう。少なくとも、中国に対する台湾防衛意思の表明であり、最悪の場合は、中国対台湾・日本・アメリカの戦争準備行動の一環である。中国が台湾に対して武力行使の暴挙に出た場合、自国防衛のために台湾軍が戦うのは当然であるが、東シナ海方面では日本が支援の前面に出ることになる。アメリカ軍が、中国軍との直接交戦に踏み切るかは分からない。現在のウクライナを見れば、沖縄やグアムの米軍基地を攻撃でもされない限りは、アメリカ軍は後方支援に徹し、戦うのは台湾軍と自衛隊になる可能性がある。日本が中国に対する防衛体制を整備するのは当然であるが、軍備だけでは国は守れない。中国を警戒しつつも、敵視して対立を深めるのは得策ではない。本来なら、硬軟併せ持つしたたかな外交を打ち出せれば良いのだが、悲しいかな、宗主国アメリカの意向には逆らえない。アメリカが対中強硬姿勢を取るならば、日本も右に倣えである。最後の最後に梯子を外されて、東アジアで戦争が勃発した際に、日本が戦場にならなければ良いが。
ウクライナ戦争が勃発して以来、この戦争を起こした者たち、アメリカとロシアの戦争を起こそうとしている者たち、第3次世界大戦を起こそうとしている者たち、彼らの邪悪な野望が打ち砕かれるよう祈って来た。今、それらに加えて、日本・台湾と中国の戦争が起こされないよう、悪き者たちの計画が打ち砕かれるようにと祈っている。地道な平和への努力は尊いが、国家が、あるいは国家を超えたグローバリスト集団が開戦を決意するなら、それら善意の行動は、いとも簡単に踏み躙られるのが現実である。となると、平和を実現するための最大の武器は、神に対する祈りしかない。これこそが、地上で最も強力な武器である。今こそ、平和のために、その武器を用いる時である。
「平和をつくり出す人たちは、さいわいである、彼らは神の子と呼ばれるであろう」(マタイによる福音書 5:9 口語訳)