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偽善者たちの靖国(記事No.127)

 例年のように、今年も8月は、日本人の多くが戦争を想起する時期である。そのこと自体には、別にケチをつけるつもりは無い。しかし、とりわけ、一部政治家たちの偽善的な行動には、毎年嫌悪感を抱いてしまう。それは、靖国神社参拝のことである。あらかじめ明らかにしておきたいが、私は、閣僚であれ国会議員であれ、個人の信条に基づいて靖国神社を参拝することは、それぞれの自由だと考えている。その際に、公用車を使用するのも、警備上の必要性があれば構わないし、公職名で記帳するのも、それだけで、政教分離に反するとは思わない。玉串料などはポケットマネーで出すべきであるが、参拝自体は信教の自由に属することである。閣僚など高位公職者であっても、個人がその信条に基づいて参拝する限り、中国や韓国に批判される謂れは無いだろう。私が嫌悪感を抱く理由の1つは、彼らの少なくとも一部は、保守派を装いながら、その実、反日政治家であるからだ。

 今年の場合、閣僚級では8月13日に、西村康稔経済産業大臣が靖国参拝を行ったのを皮切りに、8月15日午前中迄に、高市早苗経済安全保障担当大臣と秋葉賢也復興大臣が参拝した。終戦記念日前後の靖国参拝は、保守派や愛国者のイメージを支持者らに与える効果があることは明らかだ。彼らが言行一致であれば、参拝の是非は別として、政治家として筋は通っている。だが、先に挙げた3人の現職閣僚の内、少なくとも高市氏は、統一教会と浅からぬ関係を有していた。彼女が大臣就任後の記者会見で自ら明らかにしたところによれば、2001年に統一教会系新聞社の世界日報社が発行する月刊誌「ビューポイント」に、政治評論家らとの対談記事が掲載されたことがあると言う。高市氏は、世界日報社が統一教会と関係があるとは知らなかったと語ったが、国会議員でそんなことも知らなかっとは、嘘をつくならもう少しもっともらしいストーリーを作るべきであったと思う。仮に、本当に知らなかったとすれば、その程度の頭で経済安全保障を司るとは、身の程知らずと言うべきであろう。高市氏は、同じく統一教会系である「天宙平和連合」の行事に祝電を送ったことも判明しており、もはや「知らなかった」では済まないであろう。

 高市氏のケースは、彼女が絵に描いたような言行不一致であり、とても政治家としての資格が無いことを示している。何故なら、統一教会は、韓国をアダム国家として、彼らがエバ国家とみなす日本を従属させることを、教理的に正当化している、反日団体であるからである。また、彼らが霊感商法や合同結婚式などの手法を駆使して、多くの日本人の財産を収奪し、人生を破壊して来た事実に照らしても、反日団体と位置付けるに相応しいだろう。その反日団体と関係を有していた閣僚が、保守派を演じて靖国参拝を行うとは、精神分裂でなければ、全ては計算尽くの行動と言うことである。保守派を装いながら、反日団体統一教会と親密な関係を有していた安倍元首相と同様、彼女も、権力の高みに登るためには嘘を平気でつける、信用出来ない人物と言えよう。口先なら何とでも言えるが、行いは、特に公職者の場合には、その人物像を判断する決め手であろう。

「木が良ければその実も良いとし、木が悪ければその実も悪いとしなさい。木の良し悪しは、その結ぶ実で分かる」(マタイによる福音書 12:33 新共同訳)


 さて、私が、自称保守派政治家で、靖国参拝を行っている人々の一部に対して嫌悪感を抱くのは、彼らの言行不一致の故だけではない。もっと大きな理由は、彼らが本当に戦没者たちを悼む心を持っているか疑わしいからである。ここで1つ、戦没者との関わりを持って来た、ある夫妻の話を紹介したい。週刊新潮電子版である、デイリー新潮2022年8月13日付記事に、10年以上個人的に、沖縄戦の戦没者遺骨収集を続けている浜田夫妻の話が紹介された。ご主人の浜田哲二氏は元朝日新聞カメラマン、奥様の律子氏は元読売新聞記者とのこと。以下は、記事の一部抜粋である。「6月23日は沖縄県の『慰霊の日』だ。戦争末期、日米合わせて20万人以上が犠牲となった凄絶な戦闘。その激戦の跡地で、戦没者の遺骨や遺留品を掘り続ける元新聞記者同士の夫婦がいる。(中略)約30年間勤めた朝日新聞社を2010年に退職して以来、毎年1月中旬から3月中旬までの2カ月間、妻と二人で県内にアパートを借り、本島の中南部にある洞窟壕やジャングルなどに埋もれた戦禍の犠牲者と向き合ってきた。朝日新聞で写真記者(カメラマン)だった頃から、社内でも一風変わった存在と見られていた。ブラック企業の先駆け的な組織で、取りにくい休暇を使って沖縄へ通い、出張の際にも空き時間を利用して、簡単な道具と素手で地面を掘り続けた。リベラルな社風として知られる会社で、右翼的な取り組みと揶揄される遺骨収集を記事にしたり、自ら発掘作業にあたったりしたのも、変人と呼ばれたゆえんだろう。(中略)国の硬直した官僚主義を批判する新聞社が、それ以上の悪しき官僚的な組織だと気付いた頃から、早期退職を意識した。そんな時に出会ったのが遺骨収集。雇われ記者時代を含め、活動歴は足掛け20年に及ぶ」

 ここで引用した記事中には、浜田氏夫妻の遺骨収集費用については書かれていなかったので、ネット検索してみた。すると、彼らは、「みらいを紡ぐボランティア」(代表浜田哲二氏)という団体名で、2019年1月にクラウドファンディングで170万円を集めていた。プロジェクトの概要としては、次のように記されている。「はじめまして。プロジェクトを立ち上げたボランティア事務局の浜田哲二です。この活動は、沖縄守備隊の歩兵32連隊・伊東孝一大隊長の元へ終戦直後に届いた、部下の遺族からの手紙356通を『世に伝えてほしい』との依頼で始まりました。70数年間、誰にも存在を知らさなかった色褪せた書簡です。内容を紐解くと、我が子を亡くしても軍国の父母としての矜持を崩さない悲しき虚勢や、もう帰ってこない夫を想う妻の切実な心情が綴られています。沖縄での戦没者の多くは、家族の元に遺骨や遺留品が返っていません。(中略)学生たちと地を這うような探索を続け、40軒近く返しましたがまだ300通以上残っています。すべての遺族に手紙を返還するのが私たちの目的。来年は、この部隊が戦った洞窟で遺骨収集も実施する予定です。」彼らは、クラウドファンディングでの資金集めを手掛けるまでは、私財を投じて戦没者遺骨収集を続け、ボランティアの学生たちも、アルバイトで資金を稼いで、沖縄に渡っていたのだ。また、浜田夫妻の職歴が、それぞれ朝日新聞と読売新聞という、方やリベラル系と目され、もう一方は保守系と見なされている新聞社というのも、ある意味ではユニークではある。彼らの地道な活動が、政治的な思想信条とは別の動機に基づいている証左であろう。

 ちょうど1年前、本ブログで「死して屍拾う者なし(記事No.27)」と題した記事を書いた。そこでも触れたように、第2次世界大戦における日本の戦没者総数約310万人の内、未収容の遺骨が約113万柱である。その内、海没者約30万人を除くと、陸上戦没者の未収容遺骨は約83万柱である。本記事で紹介した浜田夫妻のような、民間有志の遺骨収集活動は尊い働きである。しかし、本来は、全て国の予算で、政府が公の戦後処理事業として行うべきものである。確かに、厚生労働省の事業として、遺骨収集活動が続けられてはいるものの、最初から、残置遺骨を全て収容することは念頭に置いていないと疑わざるを得ない。もし、国政に責任と権限を有している政治家たちが、戦没者を真に悼み、そして彼らを敬う気持ちを持っているのであれば、このような状況が続くことを、決して放置できないのではないだろうか?だから私は、毎年終戦記念日やその前後に、カメラの砲列の前に、これ見よがしに靖国参拝する政治家たちに対して、その真意を疑うのである。そして、こう思う、「何が靖国だ。」と。